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転送から帰るときのタクシーの車内で思う事

2年目研修医のjun1です。



今月は東神戸病院で地域医療研修中です。


 

東神戸病院では患者様が来院して、これは転送だ、という時は研修医が呼ばれます。


 

『医師同乗』というやつです。


 

東神戸病院では『医師同乗』は研修医の仕事です。


 

転送が決まると電話がかかってきて救急外来に呼ばれるのですが、そこからその患者さんの情報(来院の経過、現在の病状、救急外来で行った治療や検査、基礎疾患、内服薬等)を大慌てで頭に入れて救急車に同乗します。


 

そして、救急車内では患者さんに声を掛け、救急隊の人と必要な情報を交換し、患者さんの家族の不安に傾聴し、必要な情報があれば追加で問診しながら、転送先の病院に着いたら、救急外来の医師に患者さんのプレゼンテーションをします。


 

この一連の出来事はトータルで1時間ほどの事なのですが、医事課から突然電話がかかってきて『先生、救急車の同乗お願いします。救急外来に向かって下さい』と言われた途端、頭の中でファンファーレが鳴って、アドレナリンが脳内にドバっと放出され、怒濤の時間が流れ始めます。


 

そして、転送先での他流試合(プレゼンテーションのことです)が終わると帰っていいのですが、私は可能な雰囲気(ふんいき)なら(しばら)く残って転送先の医師の診察を少し離れたところから見させてもらっています。



 

自分の勤務する病院以外の医師の診察を見られる機会は中々無いので、興味津々、貴重な機会です。


 

『あっ、うちの先生と同じ診察の仕方してはる』とか『同じ所見を取るのにあのような方法もあるのか』とか『むむっ、あれは何を疑ってしている診察なのだろう?』など勉強になることも結構あります。


 

そして一段落すると転送先の救急外来を出て、自販機で缶コーヒーを買い一服します。


 

患者さんの今後の事を気に掛けながらも、転送が無事に終わった事に安堵(あんど)し、身体全体が脱力し、ザザっと疲れが襲ってきます。


 

そんな中で帰りのタクシーに乗車するのですが(本題のタクシーに乗るまでの話が長いな〜)、いつも乗る前に少し憂鬱(ゆううつ)になります。


 

理由はタクシーの運転手の運転の《質》が低いから。



運転したいように運転する人ばかり。



これは他の事にも通じますが・・・私も気を付けないと、例えば《ブログやカルテを書きたいように書いてはいけない》とか。


 

今まで20回以上転送の救急車に乗りましたが、帰りのタクシーの車内でホッとしたのは1度だけ。



全員マナーは悪くないのですが運転がメチャクチャです。


 

自分の左斜め後方の乗客の乗り心地に細心の注意を払いアクセルとブレーキを踏むドライバーはまずいません。


 

『できるだけ短時間で運んでやろう』という運転ばかり。


 

(あるい)は私を人間として見ているのか、荷物のように見えているのではないか、という様な運転にもよく出会います。



そういう質の仕事に触れると、または欲望に触れると、精神的に『げんなり』してしまいます。


 

身体は前後左右に揺られ、割り込みや車線変更にヒヤヒヤさせられる運転ばかりで、ウトウトもできません。



私を運ぶ時間というのはたかだか20分程度のもの。


 

ゆったりと流れる様な滑らかな運転をし、かつ安全運転を心がけて、その結果失われる時間とお金はそれほど多くは無いと思うのですが、どうでしょうか。



タクシーの運転手の提供するものは移動の手段ではなく『寛ぎの時間』であるのだ、と思って仕事をするか、『取り敢えず運べばいい』というような運転をするかでは、人生において失うものは思いの他多いと思うのです(相変わらず大げさだな〜)。


 

『できるだけお金を稼ぐために、取り敢えず短時間で運べばいい』というような運転をするタクシー運転手の照準しているのは、タクシー運転手自身の欲望です。


 

反対にタクシーに乗っている時間を『寛ぎの時間』として提供しようとしているタクシー運転手の照準しているのは乗客である私の欲望です。


 

この違いはかなり大きいですね。


 

という訳で私はタクシーに乗りながら『ああ、この人はタクシー運転手以外の仕事をしていても、質の低い仕事をしていただろうな〜』と思う事が殆どです。


 

1度だけ『むむっ、僭越(せんえつ)ながらこの人はタクシー運転手以外の仕事をしていても、質の高い仕事をされていただろう』と敬意を抱いたタクシー運転手の方が一人だけいました。



私にとってその移動中の時間は、ただの移動以上の時間となりました。


 

タクシーを下りるとき、心の底から『ありがとうございました』と感謝の言葉を言うことができました。


 

写真はタクシーチケットです。転送に行く前に渡されて、清算の時に金額を書き込んで運転手に渡します。


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